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『お産椅子への旅』
長谷川まゆ帆 著 
2004年刊 岩波書店


ヨーロッパで使われていたお産椅子の歴史を通じて
産婦の身体と社会や医学の関りを研究した本。
議論としてややまどろっこしいところもあるが
事例としてはたいへん興味深いものである。
これは人類にとって「産む」とは何かという
根源的とも言える問いに一歩近づくための旅でもある。

 



以下、本文より・・・

・「もの」はたしかに人間の活動や思考の産物であり、
一定のコンテクストの果てにあるもの
・枢機卿簿が、教区司祭のパーソナルな資質に左右されて、
気まぐれに付け加えられたり付けられなかったりする、
不完全でランダムな記録でしかなかった時代には、
誰もこの帳簿を通じて民の一人一人の生活から全体が把握できるとは
思いもよりませんでした。
この帳簿「現実を映し出している」という
「真理」としての権威が高まるにつれ、
臣民の「現在」は支配者に把握されうるものとなり、
少なくとも把握できると考えられるようになり、
この帳簿をもとに一人一人について調べ
チェックすることができるとみなされるようになっていったのです。
・こうして「真理」のよりどころとなった文書記録は、
特定の秩序や権力に権威を与え、
目に見えないかたちで身体を方向づけ、
作り変えていく装置として機能してきました。
・レースランの『産婦と助産婦の薔薇の園』は、
中世以来手付かずであった助産の領域について、
学識ある立場から、無学な者たちに向けて書かれた助産の手引書でしたが、
これはそもそも医学の体系の外で行われていた助産を
医学全体の中に統合していこうとする
ルネッサンス以降の医学者たちの立場を示すもの
・この時代には、印刷本を出版する際に、
特定の個人に献呈するかたちで出版されることは
珍しいことではありませんでした。←献呈に対する報酬
←出版の正当性。不法な複製を防ぐ
・女たちがお産するときには、
隣近所や親戚の女たちの相互扶助を頼みとしていた
・お産椅子が人間の身体に呼び起こしていった所作は、
「伝統的な」ものであるというよりも、
むしろ「お産の身体全体を近代へと押しやるもの」であった
・より簡便で手間のかからないお産とは、
同時に、産婦が椅子に座って椅子だけをたよりに
自らを支えなければならない孤独なお産へと
向かってものでもありました。
・「手で触れるとき、人間は自分の身体の外側へと越境し、
他者との出会いを果たしに出かけようとしている」←ブラン
・産ませる者は産む者でもあり、
産む者は産ませる者でもあるという両面性、
多層性を獲得すること、
それが差し伸べる手と差し伸べられた手との間に生じている
対等で相互的な出来事なのだと思います。
・「近づきえないものに向かって接近を試みながら、
はたまた現存と不在とに共通なものを引きとどめながら、手は彫り、祈る」
(ブラン、1990)
・こどもが母体の中で外に出られないまま死んでしまうと、
洗礼を施すことができない←胎児への洗礼のために母の命を軽視
・未洗礼のままこどもが死んで生まれてくることにないよう、
苦肉の策として、自らの右手を使って体内の胎児に洗礼を施し、
しかるのち胎児の死を覚悟で引っ張り出す
←ギヨーム・モケ・ド・ラ・モット
・お産椅子が出現することによって、新しい価値が出現し、
お産における快適さ、心地よさが求められるようになった
・16世紀初頭は、時代の風潮として
まさに従来のカトリック教会への批判が高まりつつあった時代であり、
それまではなんでもないことのように黙認されてきた
「未洗礼死産児」の問題が改めてクローズアップされ、黙認できなくいった
・中世以来存在した助産婦は、出産時にこどもが死にかけているときに
仮洗礼などを行う存在として設置を求めたもの
・お産の姿勢は、19世紀のうちにも
背を起こして産む垂直姿勢から仰臥姿勢へと徐々に移行していき、
20世紀初めから中葉になると、もはや都市でも農村でも
大部分の人々がこうした姿勢をとらなくなっていきました。
そして座って産んだり、立って産んだりすること自体が
野蛮で動物的に思われ、みっともないものと
映るようになっていったのです。
・多様な選択の幅や、工夫の可能性が残されていたお産の姿勢が、
ある特定のポスチャーだけに正当性が与えられ、
それだけに収斂され、一元化されていく、
そのような変化の過程
・産むという身体感覚を一度経験した人には、
それを自ら取り戻すことは比較的たやすい
・言葉の真の意味で「産むのを助ける」だけでなく、
文化や文明化の過程と密接に関わって構築されてきた歴史的行為であり、
まさに文化の産物だった
・それぞれに異なる妊婦の、
しかもお産のたびにも毎回ちがうというそれぞれの身体を、
産婦自らが柔軟に解き放っていく




 
 

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