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『ナショナリズム入門』
植村和秀 著 
2014年刊 講談社現代新書



ナショナリズムの用語、概念の解説から
日本をはじめとする世界の地域ごとのネイションの作られ方の違い、
その歴史、問題点、現状を追って
最期にネイションと政治の関係を考えるという
とても真っ当な入門書。
国家と国民と民族が一致するのが
当たり前のことだと理解する日本の特殊性と
それが一致しないことで起きている膨大で甚大な悲劇。
それを知らないと、知ろうとしないと
<日本は平和でよかったね。世界は日本を見習えばいい>
というような全く的外れなことを語りかねない。
いや、日本人の過半数は多分それに近いイメージを抱いているだろう。
日本人の民族、宗教、平和に対する感度は低い。
そしてただ平和を享受しているだけでは、平和を愛せるようにはならない。


 



以下、本文より・・・

第1章 ネイションの作り方
・ある土地に自分が意味を認め、同じ集団の人たちと思い入れを共有することが、
ネイションを作るために必要なのです。
・ネイションをめぐる争いには、実はネイションを活性化させ、
今を生きる人々のこだわりを増強させる作用があります。
ネイションが歴史的に形成されたというのは、
その歴史を踏まえなければ新しい歴史は作れない、ということです。
・登記簿が多くの人々の心の中にしか存在しないということは、
どのような人間集団にもネイションとなる可能性がある、ということです。
・外から「この人たちのネイション」と認められ、
内で「自分たちのネイション」と認めていくにつれて、
ネイションの外部と内部がはっきりしてきます。
それは人の心に左右されており、
はかない一面と根強い一面の両方を持っています。
・共通に体験された文化的なものによって
ネイションが歴史的に形成される
・サム・キーン『敵の顔』

第2章 ネイションの自明性
―日本の形
・人間は、ネイションに分類されるために生きているわけではなく、
常に移動や変化を生じさせる生き物だからです。
ネイションの形は、本来、一義的に定まるものではないのです。
・日本のネイションは安定性に強みを持ち、
世界性に弱みを持つこととなりました。
日本では国家と国民と民族が一致するという
自己理解がきわめて根強く、ともすれば内向きになりやすい
・水戸藩における日本史へのこだわりは200年以上に及ぶ『大日本史』の編纂となり、
あわせてこれらの思想流派は、明治維新に至る水脈として、
長期間かけて全国に浸透していきました。
・ネイションへのこだわりを強めるには、
学校と軍隊が重要な人生行路となります。
・政治とは「貧乏をなくすことだ」←犬養毅
・ネイションの豊かさよりも一体性へのこだわりの方が、
昭和戦前期には急速に前面に出てくる
・強大なネイションによって強くなりたいという民衆の願望と共振
・閉塞感からの打開を他人に依存する人たちが多かった
・ネイションへのこだわりは結果として道具に使われ
ナショナリズムの自発的契機は圧殺されていきました。
多くの日本のナショナリストが東條政権によって弾圧されたことは、
あまり知られていません。
・朝鮮半島や台湾などの喪失は、
日本ネイション形をわかりやすいものに戻した

第3章 ネイションの多義性
―ドイツの変形
・近代化とナショナリズムとは、全般的に相性が良い
・「イングランドやネーデルラントやスウェーデンでは、
ネイション的な国家形成にとって重要な起爆剤が、
ほかならぬ教会の宗教改革とそれの政治的変革への転化から生じた」
←ダン『ドイツ国民とナショナリズム』
・人心が動揺すると、極端な主張が多くの人たちの心の中に忍び込んでくる
・ドイツ帝国とハプスブルク帝国を敵とした連合国は、
ドイツ・ネイションを標的とするプロパガンダを展開し、
その影響は国籍を問わずに波及した

第4章 人間集団単位のネイション形成(1)
―ドイツと東欧
・東欧ネイションは文化的、西欧ネイションは政治的
・ポーランドやセルビア、チェコの事例では
人間集団的なまとまりがより重要なものとして、
フランスやイギリス、スイスの事例では
地域的なまとまりがより重要なものとして、
それぞれネイション形成が進行していった
・ドイツと東欧とユダヤは、一つの歴史的世界を形成
・政治的敗者という運命を共有することによって、
「ドイツ人」へのこだわりは、政治的重要性を急速に増していきます。
・ヒトラーが行ったのは、ネイションの東方的状況の暴力的再編
・ヒトラーは、自己の支配する地域において、
ドイツ人を頂点とする人間集団単位の階層秩序を作り上げようとしました。
・ユダヤ・ネイションの形成において、ホロコーストの記憶は決定的に重要
・人間集団単位で形成されたさまざまなネイションは、
近代国家による暴力的選別を経て、人間集団単位での消滅、
あるいは集住させられました。
かつて散在と混住を特徴とした東欧の諸ネイションは、
地域単位ネイションへと変容させられていったのです。

第5章 人間集団単位のネイション形成(2)
―ユーゴスラヴィアの滅亡
・ネイションの形成に宗教が関係することは、決して珍しいことではありません
・日本語では信者と民族とは別の呼称ですが、
近代化の中でネイションが形成される際に、
これらのイメージがごちゃ混ぜになっていった
・「19世紀を通して、セルビアの国境が
セルビア民族の境界と一致しなかったという紛れもない事実は、
セルビア民族という概念に不自然な性質を与えた」
←イヴォ・レデラー『東欧のナショナリズム』
・高木徹『ドキュメント 戦争広告代理店』
・「内戦が宗教紛争や民族紛争の外見を呈するのは、
ジェノサイドを逃れるには、ジェノサイドの対象となる集団が
結束しなければならないという思考様式が働いた結果」
←佐原徹哉『ボスニア内戦』
・「一部の政治家や軍人が、自己の権力拡大と蓄財のために、
一般市民の恐怖を煽り拡大して『民族浄化』に利用したという構図であり、
それは、どの民族でも驚くほど似ている」
←多谷千香子『「民族浄化」を裁く』

第6章 地域単位のネイション形成(1)
―アメリカ大陸の状況
・「あらゆるナショナリズムが文化的・歴史的な要素を備えている」
←キムリッカ『土着語の政治』
・「社会構成文化」(societal culture)
←「公的および私的生活(学校、メディア、法、経済、政治など)における
広範囲の社会制度で用いられている共通の言語を中核に持ち、
ひとつの地域に集中している文化」
←キムリッカ

第8章 ネイション形成のせめぎ合い
―重複と複雑化
・「ロシア人の意識は、何よりもまず第一に“領土”と
“国家(ゴスタルストヴォ”に集中した。
“土地(ポーチヴァ)”への執着は、“血”に対するそれよりも強く、重要であった。」
←廣岡正久『ロシアを読み解く』
・「ソ連におけるロシア人は、一般には『支配民族』とみなされているが、
彼ら自身のあいだにはそのような自意識はなく、
むしろ被害者意識とルサンチマンが一般的だった」
←塩川伸明『民族とネイション』
・「1911年から1922年までの戦争の中で、
250万人のイスラーム信者が死亡しています。
そして、東部に多く暮らしていた150万人のアルメニア人、
中西部に多く暮らしていた120万人のギリシア人が、
移住と追放、虐殺によって人間集団としてほぼ消滅しました。
しかもその際には、
トルコ語を母語とするギリシア正教の信者はギリシア国家に、
イスラームを信じるギリシア語話者はトルコ国家に、
本人の同意もなしに「交換」されたのです」
←新井政美『トルコ近現代史』
・アラブ人へのこだわりにはアラビア語へのこだわりが結び付き、
アラビア語へのこだわりにはイスラームへのこだわりが結び付きます
・この「系譜的な出自をもって自他を語る」特徴は、現在も強く残っています
←アラブ人

第9章 ナショナリズムのせめぎ合い
―東アジアの未来
・民族という中国語は、日本語起源
・中国近代の思想家たちが大挙して大挙して来日したのは
まさに日本で国粋主義が流行しているとき
・清帝国の支配には、「文化的多元性の承認による多民族統合」の側面と
「近現代の領域主権国家を準備する事実上の排他的領域形成」の側面の
両面があった
・政府の弱腰を弾劾する世論が幅を利かせますが、それは結局、
都合の良い情報や言論しか認めなかった政府の情報統制のためでもあります。
・軍国主義とナショナリズムと資本主義の三つの力が合成されると、
政治指導は翻弄されて国家は危機に陥る
←マイネッケ『近代史における国家理性の理念』
・民主主義とは、自分たちのことは自分たちで決める、というだけのことですし、
ナショナリズムとは、ネイションに肯定的にこだわる、というだけのことです。
課題を解決する保証はどちらにもないのです。
そこで重要なのは、後ろ向き、内向きにならない、
ということです。

第10章 政治的仕組みとネイション
・自由主義は個人の自由を好みますが、
民主主義やナショナリズムは集団を尊重する
←緊張関係
・自由主義がなくなれば、ブレーキの利かない車となり、
ついには自滅する、というのが20世紀の教訓
・「人間がその中に身を置くことのできる、
比較的大きなあらゆる生活圏の中で、
ネイションほど直接に人間のすべてに語りかけ、
人間を強く支え、その自然的精神的な本質全体を忠実に再現するものは、
またネイションほどにそれ自体、
非常に巨大人間であり強化された個体であるもの、
もしくはそれになりうるものは、多分他にはないであろう」
←マイネッケ『世界市民主義と国民国家』
・こだわりの対立を創造的な活力に転化できるネイションは、
強制的に一元化するネイションや敵を作って団結するネイションよりも
根強いのではないか
・多くの人々が、ネイションを一個の市民宗教として認知し、
世界をどう見るか、その中の自分たちの位置をどう見るかを
定めるものとするようになるにつれて、
19世紀の終わり近くには、
ネイションのいわゆる優越性と文化的自立性とが
この柔軟性に挑戦することとなった
・ネイションへのこだわりの重点が、
仲間との連帯から異質なものの排除へと移っていくにつれて、
ヨーロッパの雰囲気は変わってしまったのです
・「大衆のネイション化」が進行するに際して、普通の人たちのこだわり方は、
従来とは違ったものとなります。
少数の人々が文筆でネイションを論じる時期が過ぎ、
大衆が、自己の願望をネイションの姿に読み込む時期が到来するのです。
ネイションを自ら担うよりも、むしろネイションにすがっていく。
そのような願望を満たす政治が求められ、
日常生活がネイションの色で染められていく。
・解放感と不安感、進歩への希望と混乱への恐怖が、
さまざまな形で組み合わさりながら、
この近代化がしんこうしていきます。
・多くの人に対して、出生によって入場資格を与えてくれます
・ネイションは低コストであるがゆえに、
他の可能性と競争して優位な立場を確保することができるのです。
しかもネイションが近代国家と接合すれば、
自己の生きる枠組みは制度化され、
変化の中で現実の足場を提供してくれます。
・新興国のナショナリストの努力が、
ネイションの一員という自己認識を住民の間で高め、
ネイションの自明性を強めることに注がれた、と指摘しています。
それは「悪戦苦闘の連続であり、
たいていは今まさに始まったばかりであり、
しかもどこまでも混乱と不完全さを残していた」
←ギアーツ『文化の解釈学』
・人間はネイションに分類されるために生れてきたわけではありません。
ネイション化しているということは、
ナショナリズムが現代人の煩悩の一つとなっている、ということです。
・このナショナリズムの流行はネイションの流行であり、
それはつまり、世界の分裂です。
世界を分裂させていくネイションをまとめ、
意味のある世界を新たに作り出していく知恵を出すことが、
21世紀の人類の課題




 
 

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