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『マリノフスキー日記』
B.マリノフスキー 著 谷口佳子 訳 
1987年刊行 平凡社


鋭く精緻に書き上げられた『西太平洋の遠洋航海者』からは想像できない、
そこに至る途上の苦悩の日々の記録である。
 

日記の中のマリノフスキーは薬漬けで、恋愛小説に耽溺し、妄想して周囲に悪態ばかりついている。

疲れた、とても疲れた、痛い、苦しい、腹立たしい、眠れない、ああああー、とても腹立たしい、恋しい恋しい恋しい、戻りたい…
そんな泣き言の繰返しで、原住民の生活なんかに全く興味が持てない、とまで書いている。

戦争によって突然「敵国人」とみなされて半ば島流しのようになり、トロブリアンドとヨーロッパの間で、
全く孤独で何者にもなれないまま宙ぶらりんでい続ける苦しさが生々しくそこにある。
 

しかし一方では南国の自然には強く惹かれていて、こんな描写もある。

…腐りかけの木々が、時にはまるで汚れた靴下か生理の経血のような悪臭を放つかと思うと、
また時には「発酵中」のワインの樽が醸し出す陶酔の香りをまき散らす…

人類学者というより溺れかけのデカダン詩人という感じである。
アンリ・ルソーの『魔術』の世界のようでもある。
この想像力、感受性の強さが南の島々のわけのわからない人々の生活の背景にある
広大な民族的世界を「発見」させる力になったのだろう。
そして、そんなドロドロ自分を鼓舞して、律儀に記録を取り続け学問的成果に練り上げていったのである。
 




 


頻繁に登場し、日記の中ではほとんど神格化されている
婚約者のエルシー・メイソン
(Malinowski Odyssey of an Anthropologostより)
 


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